教員リレーエッセイ(3)-「六法は横に読め」
2008年05月14日 13:30
六法は横に読め
准教授 土田 亮
昔話で恐縮ですが、私が研究者の道を志すきっかけになったのは、大学2年のときに受けた手形・小切手法の授業でした。「効率的な」時間割を組むために、3年生配当の科目を無理矢理受講したのですが、担当の先生の講義は、口調は穏やかながら多くの具体的な事案をちりばめていて理解しやすく、民法の債権総論を同時並行で勉強するという無謀な私にも何とかついてける(しかも話のレベルは決して低くない)ものでした。この授業での出会いがきっかけで、私はその先生のゼミに入り、大学院進学を選び、先生を師と仰ぐこととなりました。
その、わが師匠が折に触れて話すことが「六法は縦に読むだけではだめだ。横に読みなさい」というアドバイスです。勉強するときには、個々の規定をバラバラに理解しようとするのではなく、他の条文とのつながり、関連のなかで、各規定の意義・解釈を理解するようにしなさいということで、自分が商法を学ぶ上での基本的な視座となりました。
しかし、この言葉は、単に勉強のやり方について述べるにとどまらないことに気づきました。個々の規定の意味を理解することはもちろん大事だが、その背後にある法の思想・体系を理解するようにつとめなければならない、そういう意味のアドバイスでもあるのではないか、と思うのです。
学生さんは(場合によっては実務家の皆さんも?)、目の前にある問題・紛争を解決することが第一ですから、まずは当該問題・紛争の解決に直接役立つ規定や論点についての解釈・理解に最大の努力を傾注することになります。とはいえ、個々の規定・論点の理解に際しては、やはりそれが当該法令全体の中でどう位置づけられているかという点や、当該規定が置かれた趣旨、他の規定との関連といったことを知っているかどうかで、理解の速度や深度は自ずと異なってくるはずで、できれば全体の体系や、理論的な位置づけを知っているに超したことはありません。しかしながら、時間や人手の制約がありますから、自分一人で体系や理念を探り当てるということはなかなか難しいのではないかと思います。
他方、研究者は個々の事案からは一歩引いた位置に立って、複数の事案を比較検討したり、立法の経緯や沿革、過去の学説などに照らして、それぞれの立法や判例の背後にある理念や体系を見いだすこと、そしてそれを個々の規定の解釈に還元することを得意とします(というより、それが仕事です)。直接は事案の解決に役立ちそうもないことでも、全体の体系的な位置づけのなかで面白そうなネタであれば、喜んで飛びつきます(少なくともわたしはそうです)。そうして得られた研究成果が、論文や教科書などの書籍の形で、学生さんや実務家のみなさんが法体系や法理論を読み解く一助になれば、結果として実務に携わる人たちの助けとなり、迅速かつ適切な紛争解決に資することになるのだと思います。
法科大学院をはじめとする法学教育の場における、私のような研究者教員の教育上の大きな役割のひとつは、判例・学説の蓄積によって形成された体系を学生の皆さんにわかりやすくお伝えすることだと考えています。学生の皆さんが六法を横に読めるようになるための手助けができれば、研究者教員としてとても喜ばしく思います。
投稿者 omiyalaw
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