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大宮法科大学院大学 今週の大宮法科

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今週の大宮法科

2008年12月

2008年12月06日 12:00

久保利英明

風向きが変わった司法制度改革


 司法改革は政治改革・行政改革・地方分権改革・経済構造改革の総仕上げとして、これらの改革を「法の精神・法の支配」によって結びつける「扇の要」として検討が開始された。司法制度改革審議会が設置され、二年間にわたり小渕・森・小泉の三内閣の下で徹底審議の上、二〇〇一年六月に提言された。司法改革とは肥大化した行政システムを改め、政治部門の統治能力を高めるとともに、過度の事前規制を排し、いままで弱体であった司法による事後監視・救済型社会への転換を実現するために必須の改革なのである。
「制度を活かすも殺すも人である。」との認識の下に、司法の担い手である法曹の抜本的増強と改革が提言された。従前五〇〇名程度であった司法試験合格者が一九九九年には一〇〇〇名に増加していたが、さらに加速して、二〇〇四年には一五〇〇名に、二〇一〇年には三〇〇〇名を達成し、二〇一八年頃には実働法曹人口を五万人規模(法曹一人当たり国民二五〇〇人)にする計画が示された。意見書が発表された当時一万八二四六名であった弁護士人口は現在では約二万五〇〇〇名を数える。
 しかし、意見の提言から七年がたち、諸改革への取り組みは遅々として進まず、改革意欲は減退し、司法改革にも逆風が吹き始めた。いま、司法改革の三つの目玉とされた、法曹人口の飛躍的拡大、②法曹人口拡大のための法科大学院制度の導入、③刑事司法を改革し国民の司法参加を実現する裁判員制度の創設のすべてについて批判的論調が弁護士会内外で巻き起こっている。本稿ではこの問題を弁護士人工の切り口から検討する。

法曹人口拡大についての批判への再反論

 法曹人口拡大への批判は大きく分けて三点に集約される。

①増員に伴い法科大学院卒業の新司法試験合格者の水準が低下し、さらに就職難のためOJT(オンザジョブトレーニング)の機会喪失により弁護士の質が低下する。
②弁護士の需要は実際には少ないのに、増員のため競争が激化し、濫訴や食えなくなった弁護士による違法行為など弁護士の倫理が低下し、国民に被害を与える。
③我が国古来の醇風美俗とされる平穏で和を尊しとする社会秩序の崩壊をもたらす。
という指摘である。
 しかし、これらの論点に対しては改革論者から以下の通り再反論がなされている。
①に対しては、新司法試験合格者の質が低下したという証拠はない。一部の論者は司法研修所修了試験(二回試験)の不合格者が増加している事実をその根拠としているが、法科大学院卒業者で二回試験を終えたのは、旧司法試験を受験するために予備校で教育を受けてきた、二年制の既修コース卒業生のみ(不合格率七・二パーセント)である。旧試験組の不合格率五・一パーセントと大差ない。制度の本則である三年コース修了者はまだ二回試験を受験しておらず当然、弁護士にもなっていないのであるから、そもそも法曹としての質を云々する段階にいたっていない。不断の業務能力の向上は専門プロフェッションとしての一人一人の弁護士の研鑽と所属弁護士会の指導によるべきものであって、勤務弁護士でなければOJTが受けられないというものではない。司法研修期間が短縮され、自ら研鑽する能力のない者が二回試験に失敗し、法曹資格を取得できないという当然の結果にすぎない。
 ②の主張に至っては荒唐無稽の一語に尽きる。弁護士の需要が少ないと決めつけているが、弁護士過疎地域といわれる地域は全国にまだ多数ある。企業法務といわれる「知的財産権」「金融商品取引」「海外取引」「税法」などについて企業の求める専門弁護士は著しく不足している。理系出身や専門知識を身につけた社会人経験のある法科大学院三年コース出身の弁護士へのニーズは根強い。
 さらに弁護士の活動分野を裁判所で行われる訴訟事件に限定するから、需要がないように見えるだけで、各企業の抱える膨大な法務部員の数や信託銀行の行う遺言サービス件数、公正取引委員会や証券取引等監視委員会などの準司法手続的官庁、地方自治体で都市開発や条例審査を行う司法セクションの人手不足を見れば、弁護士に対する需要はいくらでも掘り起こせる。

食えない弁護士が違法行為に走るという詭弁

 刑事裁判についても裁判員制度下の手続きは旧来の弁護士も新規弁護士も同様に初体験であり、短期集中審理が前提となるこの制度に積極的に関与する弁護士は絶対的に不足している。裁判員制度については瑕瑾を探して絶対反対を唱える論者もいるが、わが国はすでに一九二八年(昭和三年)に陪審員制度を実施していた。戦時緊急体制の下で一九四三年四月一日に停止されることになったが、この間、四八四件が陪審に付され、うち八一件に無罪判決が出ている。現在の有罪率九九・九パーセントからはとうてい考えられない無罪率である。それから八〇年も経ち、大学卒業者が同年人口の半分を数え、識字率九九・八パーセントの主権在民のこの国で、他の先進諸国同様に国民が裁判に参加できないはずがない。問題は弁護士不足だけである。
「食えなくなった弁護士が濫訴を提起し、違法行為を働く」という増員反対論は、弁護士層全体への侮辱に他ならない。生活苦から客の財布を強奪するタクシー運転手も、旅館経営者もいない。患者の少ない歯科医が健康な歯を抜歯し、外科医が健全な臓器を摘出することもあり得ない。ひとり弁護士だけがこのような違法行為を行うとする議論は弁護士制度の自殺である。弁護士会内で堂々とこんな議論がなされること自体、法科大学院で法曹倫理を最低でも二単位履修している新人弁護士の質よりも、法曹倫理を学んだことのない既存弁護士の質こそが問われる。
③の議論も的はずれである。この議論は鳩山邦夫前法相の持論でもあるが、主張されている日本古来の醇風美俗とされる「和を以て尊しとなす」の精神は、現代では訴訟や紛争の法的解決を前提とする。訴訟を欧米的文明と位置づけし、正当な権利の主張を、「敵を作り、日本の文明を崩壊させるもの」と断定することは司法や法的解決を正しく理解しているとはいいがたい。日本的文化を旧弊の「ムラの理論」と理解すれば、「闇カルテル」「官製談合」も暴力団の利用や不当な行政指導も是認されることになってしまう。公正な司法は無意味な濫訴を奨励するわけでも、権利の濫用を容認するわけでもない。むしろ適切な訴訟遂行や公正妥当な和解の成立のために、充実した質と量の法曹が求められているのである。

なぜアジア諸国で司法強化が叫ばれるのか

 法曹人口激増のためのインフラである法科大学院に対しても、厳しい注文が寄せられている。「特許やコンテンツ、経済活動の基礎である金融・証券の基礎の分かる人材が少ない」「いまは独善的な弁護士が多いので社会人経験も必要である」「市民の目線で依頼者の心理も理解する優しい弁護士が欲しい」などと、「法律学でガチガチになった頭の持ち主」ではなく「かけがえのない人生を生きる国民の社会生活上の医師」という弁護士像が求められている。一例を挙げれば〇八年に大宮法科大学院から合格した一六名中一一名が非法学部出身である。一〇名が社会経験を持ち、現職の医師をはじめ、理系院卒の電機・通信専門家、英米の大学・大学院卒業者など多士済々である。国民はこんな経歴の弁護士を待っている。
 法曹増員問題は世界的視野から判断すべきである。韓国や中国でも法曹人口の急増が課題となっている。中国では毎年万人単位で法曹が増加している。韓国では二〇〇六年末現在、法曹一人当たりの人口五七五八人(日本は約五〇〇〇人)を二〇二〇年ごろまでに経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均である一四八二人に引き上げることにしている。
 この数値を達成させるために韓国でも法科大学院制度が二〇〇九年三月からスタートすることになった。三年制のみで既修者コースはない。全国九七の法学部のうち、四〇枚が開設を希望していたものの、定員は二〇〇〇名に限定され、認可は二五校に絞られた。また、ロースクール設置認可を受けるためには卒業生が誕生する二〇一二年以降法学部の廃止が要件とされた。東アジア諸国が司法改革に懸命なのは法曹人口の飛躍的増加による司法強化が経済競争中での勝利と国民の人権擁護・福利の保証に必要だからである。日本だけ例外なはずがない。

投稿者 omiyalaw

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