リーガルクリニック・ロード法律事務所の発足
10月1日より、本学ビル1階に、本学の臨床教育(学内クリニック)を担う法律事務所、「大宮法科大学院大学リーガルクリニック・ロード法律事務所」が発足しました。クリニック担当の萩原教授によれば、事務所名「ロード」は、Bob Dylanの「Blowin`in the Wind」の第一節「 How many roads must a man walk down. Before you call him a man」から取っているとのこと。Bob Dylanは、フォーク・ロック界のカリスマと言われ、「風に吹かれて」は60年代アメリカの公民権運動を背景にしたプロテスト・ソングでした。そして、この時代の雰囲気が、アメリカのロースクールにおける、リーガルクリニックの発展を促しました。ロード法律事務所に集う学生達、それぞれ進むべき具体的な「道」は異なっていても、「理想的な法律家」を目指すという意味での「道」は同じであり、その「道」を躓きながらも、進め、進め!やがて、それぞれの「道」へと分岐して行くのだろう。この事務所 は、それぞれの 学生の目的地へと連なり・導く「道」でありたい。そして、その究極の目的地とは、Bob Dylanが歌ったように、遙かな道のりかもしれないが、全ての「人」が真に「人」に値する自由を確立し得る社会と言えるだろう。こういった思いを込めているとのことです。
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学生リレー日記(第8回)田舎医者ロー奮戦記
なぜ弁護士を目指すのか
私は東北の片田舎で長年医者をしていました。法律を学ぶのは初めてです。私の田舎は電車が2時間に1本しか走っていないようなところです。県内には法学部をもつ大学がありません。人口17万人の市なのですが、弁護士さんは7人しかおりません。周囲の市町村はいわゆるゼロワン地域ばかりです。面接の時に、「医療過疎地で医者を続けた方が社会貢献になるのではないですか?」と言われて答えに窮しましたが、「医療過疎以上に司法過疎は深刻な問題です」と答えました。私の知り合いの田舎の弁護士さんは相談予約が2ヶ月先まで埋まっています。法律家が足りないので田舎では紛争があると殆どが素人同士の話し合いで解決します。話し合いで和解することはよい面もあるのですが、結局は権力やお金がある人が勝つという嫌な場面を様々みてきました。何となくそういう理不尽な社会を変えたいという潜在的な気持ちが法律家を志す動機だったと思います。
もう一つの動機
医療界について言えば、ここ10年ほどで激変しました。研修医の卒後研修義務化など評価できる面もあるのですが、毎年の診療報酬のマイナス改定で病院経営が難しくなっています。私は管理職でしたので病院の運営会議等に出席していたのですが、毎回の議題は経営問題です。今月は収入の目標に幾ら足りない、どうすれば収入増可能かなど営利企業と変わりありませんでした。病院が収益を上げるためには、さほど必要性のない検査を患者さんに行うなど、倫理的な問題が生じます。ただひたすら患者さんを救うことだけ考えて仕事をしていればよかった時代とは様変わりしてしまいました。このような医療を取り巻く環境の変化も医療事故の一因になっていると思います。一方、医療過誤訴訟のジャッジメントは専門家でなければ難しいのが現状です。医療を熟知した法律家の需要は大きいと感じています。
周囲の反応
私がロースクールに入ったことで周囲の反応は二つに分かれました。「いい歳して馬鹿じゃないの?」という人が大勢いる一方で、「夢の実現のための努力に頭が下がります」といった人も若干いるという感じです。私自身はあまり大それた決意で進学したつもりではないのですが、一般的には一大決心とみられているようです。確かに安定した地位や収入を捨てて進学したのですから、そうなのかも知れません。私は子供の時から変わり者でしたので、レマルクの「凱旋門」に出てくるラビック医師のように、国を渡りながらどこでも生きていける、明日は明日の風が吹くという具合の生き方が好きなので、それを実践しているのかも知れません。
ロースクールでの生活
人生の半分以上学生をやってきましたが、これほどまでに勉強した記憶がありません。医学部の博士課程でも実験、データ収集・解析、論文とかなり苦労しましたが、法律の勉強は初めてでしたので勝手が違い戸惑いました。毎週のように課される小テストやレポートにも音をあげそうになりました。ある時、あまりにも辛くて以前一緒に仕事をしていた先輩の精神科医に「何か励ましになる言葉を下さい」とメールを打ったことがあります。返事はたった一行、「良寛曰く、死ぬ時節には死ぬがよく、災難に遭う時には災難に遭うがよいとのことです」とありました。なぜか笑いがこみ上げ楽な気持ちになったことを思い出します。弱音を吐いているうちはまだ頑張れるのかなと思いました。大宮はいわゆる法学未修者対象の大学院ですが、実際は法学部出身の方や、過去に司法試験の勉強をされていた方も結構いらっしゃいます。理念としては未修者と既修者で成績に差がつかないような講義、評価法を行うとのことですが、実際に勉強する「法学」という学問は今までと何ら変わらないわけで、ハンディーキャップは当然あります。かつ、私は夜間生なので勉強時間が限られるため苦労しています。具体的には一コマの講義を受けるために最低2時間以上の予習を必要とするのですが、仕事、予習、講義を終えると他には何も時間が残りません。この一年間は新聞やテレビを見る時間すらなくて、世の中で何が起きているのか田舎にいた頃より疎くなりました。一年が終わって期末試験の打ち上げがあったのですが、お互いに口にしたのは「一年経ったらかなりの人数が脱落していると思ったけど、意外にみんな残っているね」という言葉でした。限られている時間を有効に使い、クラスメートで協力しながら勉強を進めるという体制があったからだと思います。あとは気合でしょうか(笑)。
法律は面白い
最初の半年は訳も分からず、法律の激流の中に投げ込まれて、四苦八苦していましたが、最近ようやく法律が面白いと思えるようになりました。特に大宮は実務家養成に力を入れており、その一環として本校の弁護士教員が平日の夜間と土曜日・日曜日の日中に無料法律相談を行い、学生はオブザーバーとして参加しています。リーガルクリニックと言うのですが、クライアント(依頼者)とペーシェント(患者)の違いはあるものの、医師の行う診療と非常に近いものを感じます。法律家は依頼者の話を聞きながら、法律上必要な事実、争点を取捨選択して聞き出します。医師も患者さんの多様な訴えの中から、診断や治療に必要な事実を抽出します。法律の場合は、事実、要件、効果となるのでしょうが、医療の場合の症状、診断基準、治療といった感じでしょうか。先日、クリニックの説明会があって担当の弁護士さんから「もし法律上100%ダメという場合でも、依頼者の気持ちになってよく話を聞き、心の痛みに共感することが大切です」というお話を伺って感銘を受けました。講義でも事例問題を扱うことが多いのですが、実際の社会で起こる様々な紛争をシュミレーションしながら法的な解決策を見つけていきます。法律を知っていることは確実に社会の役に立つと思います。しっかりした法律知識を身につけて、依頼者と共感し合える法律家になりたいと思う昨今です。
Y.U 夜間主2年生
編集後記
本学の後期授業は9月1日に始まり、12月中に期末試験を含めて終了します。したがって、今年度もあと2ヶ月程度となってしまいました(1月~3月は、クリニック・エクスターンシップや、前後期科目の復習の学習会などもありますが)。夜間の4年制に学ぶ学生を除き、折り返し点を過ぎて、これまでを振り返り、これからをどう組み立てていくか、一つの節目に来ているようです。
なお、本号に掲載した「学生リレー日記」は、本年初めに原稿を頂いていたものですが、当方の更新遅れで今回掲載となったものです。原稿を頂いていたUさんにはこの場を借りてお詫びいたします。
2005.11.01 広報委員長 田中 宏
