6/2(金)夜、テンプル大学ロースクールのバリー・マッカーシー教授を本学に招き、アメリカ合衆国の職場におけるセクシャル・ハラスメントに関連する法律・判例のお話しを伺いました。本学の宮澤節生教授が通訳を担当されました。
合衆国連邦議会は、アメリカ社会における差別をなくすことを目的として、1964年に「市民的権利に関する法律」(Civil Rights Act of 1964)という画期的な法律を可決しました。この法律では、人種、宗教、肌の色、出身国、あるいは性別によるあらゆる形態の差別が禁止されています。この法律の第7章(タイトル・セブン)は、雇用における差別を禁止しています。
まず、マッカーシー教授はタイトルセブンの起源をたどりました。1950年代と60年代の市民権運動は、1963年のケネディ暗殺事件により拍車がかかり、ジョンソン大統領を奮起させました。議会は主として南部諸州における人種差別に関心を持っていましたが、「性」による差別については、この法案に反対していた議員が廃案にするために後から付け加えられたものだそうです。しかしこの思惑は失敗し、翌年「Civil Rights Act」は、可決されました。
1976年の画期的な判決においてはじめて、タイトル・セブンは「セクシャル・ハラスメント」を禁止しているという解釈がなされました。それ以来、数多くのセクシャル・ハラスメント訴訟が、タイトル・セブンを根拠に提起され、その結果、多岐にわたる争点について裁判例が出されています。
マッカーシー教授は多くの訴訟上の争点、について詳細かつ明確な分析をされています。司法的救済は、過去の未払給与の請求(back pay)、将来の給与請求(future earnings)、懲罰的賠償賠償(punitive damages)(但し、上限は30万ドル)、精神的損害やその他の損害賠償請求に及びます。また、米国のルールでは、弁護士費用の敗訴者負担を採用していませんが、例外的に勝訴した原告には標準的は訴訟費用の請求がみとめられることがあります。
被害者は、訴訟の前に平等雇用機会委員会(EEOC)へ申立を行い、一定期間内に調査や調停が完了しない場合に訴訟を提起できます。被害者が望むのは迅速な謝罪である、という実証的研究を踏まえ、法はできるだけ訴訟外の自主的な解決を優先させる制度を採用しています。EEOCは、差別の申立があれば調査を開始し、差別が認定されると雇用主に対して、命令や罰則的措置を取ることもできますが、十分な予算が与えられていないため、期限内に調査が完了しないことが多いようです。
更に、マッカーシー教授は、現在アメリカの最高裁判所にかかっている、White v. Burlington Northern Railroad についても説明されました。これは、原告が性に基づく差別について雇用者及びEEOCに申立をしたところ、雇用者が報復措置として職種の変更や停職を命じたというものです。争点は、タイトル・セブンの不利な雇用行動(adverse employment action)とは何か、という点で、これまでは、3つの解釈基準がありましたが、最高裁がこの点をどう判断するかが注目されているとのことです。
出席していた何人かの学生は、裁判が長い間続いている間、原告が仕事をやめず、訴えた会社で仕事を続けていることに、大変驚いていました。
その後、日本のセクシャル・ハラスメントの被害者代理人を数多く経験されている菅沼 友子 弁護士が、 日本の男女雇用機会均等法におけるセクシャル・ハラスメントの規定とこれを訴えた者に対する「不利益な取扱い」の禁止、について説明されました。菅沼先生は、セクシャル・ハラスメントにおいて、米国と比較すると日本の法律は不十分であり、そしてセクシャル・ハラスメントの被害者が、保護を受けたり、損害賠償を受けることは、困難が多いと訴えられていました。特に、男女雇用機会均等法による「不利益な取扱い」とは、厚生労働省の通達によると、「配置転換、降格、減給、昇給停止、出勤停止、雇用契約の更新拒否等」とされ、厳格に運用されているのが現状だそうです。但し、本年4月に施行された公益通報者保護法による「不利益取り扱い」は、「嫌がらせ、専ら雑務に従事させ
る」等のより広い概念でとらえられていることから、この規定がセクシャル・ハラスメントの被害者の保護に活用できる可能性も出てきたと述べられていました。
最後に、二人の先生の講演後、本学で「ジェンダーと法」の講義を担当している市毛由美子先生が、モデレーターとなり、職場におけるセクシャル・ハラスメントの被害者の置かれている状況についての日米の差異などについて、白熱したディスカッションが行われました。
以 上
